J-PlatPat(※1)で登録商標を検索すると、「存続-登録-異議申立のための公告」のステータスを目にすることがあります。
商標権者の方から、商標の登録査定を受けたのに、ステータスが「異議申立のための公告」になっているのはなぜかと、質問が多く寄せられます。
そこで、今回、商標権の設定登録後(※2)の登録異議申立てについて、弁理士渡辺貴康が解説します。
※1 J-PlatPat(特許庁サイト):https://www.j-platpat.inpit.go.jp/t0100
※2 設定登録とは、商標の権利化の作業として、特許庁の商標登録原簿に商標が登録されることです。特許庁から登録査定があり、登録料を納めた場合に特許庁にて行われます。
◇目次
1.商標登録異議申立てとは?
商標登録異議申立てとは、商標権の設定登録後の間もない期間、特許庁の審査結果に異議を申告し、特許庁に取消しを求めることができる制度です。
特許庁の審査にも見落としや知らない事情があるかもしれないため、商標権の設定登録の直後に、このような制度が設けられています。
商標登録異議申立てについて詳しく知りたい方は、『商標登録の異議申し立て制度とは?』をお読みください。
この登録異議申立ては、単に異議があるといって申立てをすれば、必ず取り消されるものではありません。
一度特許庁の審査を通過しているため、異議申立てをしても登録が取り消される可能性は低いです。
2020年の統計では、360件の異議申立てがなされ、そのうち登録が取り消された(一部取消を含む)のは、46件(約13%)です。※
取消が46件あるといっても、そもそも登録された商標(2020年は135,081件の登録数)に対し、異議申立てされたのは360件のみで、約0.0027%にすぎません。
なお、有名ブランドの商標権者は、積極的に異議申立てを行い、ブランドの保全に労力を注ぐ傾向にあります。
※特許行政年次報告書2021年版〈統計・資料編〉第1章参照:https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2021/document/index/0106.pdf#page=6
2.登録異議申立のための公告とは?
商標の登録異議申立てのための公告とは、異議申立ての対象となる登録になったばかりの商標を「広く公衆に知らせること」(精選版 日本国語大辞典)です。
「公告」は、商標を出願し、特許庁の審査を通過して、商標登録になった後、特許庁による「商標掲載公報」(登録商標の情報が掲載されているもの)の発行により行われます。
なお、以前は、特許庁の審査後、商標登録前に「公告」され、その後に商標登録の流れでした。
<以前>
①出願(出願料納付)⇒②特許庁の審査(登録許可)⇒③公告⇒④設定登録(登録料納付)
<現在>
①出願(出願料納付)⇒②特許庁の審査(登録許可)⇒③設定登録(登録料納付)⇒④公告
J-PlatPat上のステータス「存続-登録-異議申立のための公告」は、この異議申立てを受け付けている公告期間中であることを示しています。
この公告期間中は、特許庁の審査を通過し登録間もない商標であり、一般の人からの異議受付中であることを意味します。
そして、この公告期間中(「商標掲載公報」の発行日から2か月以内)は、類似するなどの一定の理由があれば「誰でも」登録異議申立てを行うことができます(商標法43条の2)。
商標法43条の2第1項
「何人も、商標掲載公報の発行の日から二月以内に限り、特許庁長官に、商標登録が次の各号のいずれかに該当することを理由として登録異議の申立てをすることができる。・・・・・」
3.登録異議申立てを受けたら
(1)審理の流れ
◆A:商標が登録維持決定となる場合
①登録異議申立人が登録異議申立書を提出
異議申立ては、公告から2か月以内に、特許庁に「登録異議申立書」を紙の書面(オンライン不可)を提出して行います。
登録異議申立書には、申立ての理由と証拠を記載する必要がありますが、申立時には簡単な理由のみを列挙し、異議申立期間経過後(公告から2か月後)から30日以内に、申立ての理由と証拠を補充することができます。
②特許庁審判官が審判官を指定
異議申立ての審理を担当する審判官が3人指定されます。
登録査定までの特許庁の審査は審判官1人で行いますが、異議申立ての審理は、より慎重に審判官の合議体で行います。
③登録維持の決定
審判官の審理の結果、やはり登録を取り消さない場合、登録を維持する「異議の決定」が届き、登録のまま終了します。9割近くがこのパターンです。
◆B:取消理由通知を受けた場合
①登録異議申立人が登録異議申立書を提出
②特許庁審判官が審判官を指定
③取消理由通知
審判官の審理の結果、申立てに理由があり登録を取り消すべきと判断した場合、その理由とともに、「取消理由通知」が届きます。
この「取消理由通知」に対して、反論の機会(意見書)が与えられます。
④取消決定または登録維持の決定
意見書が提出された場合、審判官はその内容も踏まえて、取消または登録を維持する「異議の決定」が届きます。
(2)対処法
上記の審理の流れによって対処法が異なります。
◆A:商標が登録維持決定となる場合
異議申立書の控えや証拠資料等、多くの書類が届きますが、商標権者は特に何もする必要はなく、待つむしろ、特許庁に対して何もできることがないともいえます。
◆B:取消理由通知を受けた場合
「取消理由通知」が届いた場合、商標権者は、「意見書」で反論するかどうかを決める必要があります。
意見書で反論しないと、取消決定となってしまいますので、取り消されたくない場合は、意見書での対応を検討する必要があります。
意見書で対応する場合は、弁理士に「異議申立書」「取消理由通知」などのこれまで届いた書類を送るようにしてください。
4.まとめ
今回は、商標権の設定登録後の登録異議申立てについて、弁理士渡辺貴康が解説しました。
商標の登録査定を受けて間もない商標権者は、以下のポイントを押さえてください。
- 商標登録後でも、第三者からの異議申立てにより、登録が取り消される場合もある(ただし、異議申立てを受けるのは1%未満)
- J-PlatPat上のステータス「存続-登録-異議申立のための公告」 = 登録後に発行される商標掲載公報から2か月以内の期間中
- もし異議申立てを受けても、9割近くが取消とならずに登録が維持されるので、特に対応は不要
- 異議申立てを受け「取消理由通知」が届いたら、取消される可能性が高いため、意見書を提出して反論するか検討する