登録した商標を、J-Plat Pat(※)で確認すると、「存続-登録-異議申立のための公告」というステータスになっていることがあります。
特許庁の審査を通過し、登録手続きも完了しているはずなのに、「何か問題が発生しているのでは?」と心配になる方も多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、商標登録異議申立制度について解説します。
※J-PlatPat:特許情報プラットフォーム。無料で産業財産権情報の検索ができるサービス。(https://www.j-platpat.inpit.go.jp/)
◇目次
商標登録異議の申立てとは?
商標登録異議の申立てとは、商標が登録された後の一定期間内に、その商標は登録されるべきではないと考える第三者が、特許庁の審査結果に異議を唱え、特許庁に商標登録の取消しを求めることです。
商標を登録するかどうかの審査は特許庁で行われますが、審査時の見落としなどにより不適切な審査結果となってしまうケースがあります。
このような審査を是正し、登録に対する信頼を高めるために、商標登録異議の申立制度が設けられています。
なお、有名ブランドの商標権者は、積極的に異議申立てを行う傾向にあります。
商標登録異議の申立ては、自社の商標権を守り、ブランドの価値を維持するために重要な手段なのです。
商標登録異議の申立てができる者や期間、理由は?
異議申立てができる者
商標登録異議の申立ては誰でも行うことができます。
特定の利害関係を持つ者に限定されていません。
異議申立てができる期間
商標登録の異議を申し立てることができるのは、商標掲載公報(※1)の発行日の翌日から起算して2ヶ月以内です。
また、異議申立書の提出期限は延長することができませんので、この期間内に異議申立書を提出しなければなりません。
なお、J-PlatPatは、公報の情報を用いた産業財産権情報の検索・閲覧サービスであって、公報そのものではありません。そのため、あくまで公報の発行日を基準とした期限を確認しましょう。
※1 商標掲載公報:特許庁が、商標法の規定に基づき、商標が登録されたことを広く公衆に知らせるために発行する公報です。設定登録(※2)から2週間程度で発行されます。
※2 設定登録:商標の権利化の作業であり、特許庁の商標登録原簿に商標が登録されること。特許庁から登録査定があり、登録料を納めた場合に特許庁にて行われる。
異議申立ての理由
どのような理由により異議が認められるのでしょうか。
言い換えると、登録された商標はどのような理由があれば取り消すことができるのでしょうか。
例えば、以下のような理由があります。
- 類似による混同の可能性:既に登録されている他の商標と類似しており、消費者が混同する可能性がある場合。
- 有名商標の不正利用:既に知られている有名な商標を不正に利用している場合。
- 公序良俗に反する商標:公序良俗に反する内容を含んでいる場合。
- 機能的な商標:商品の機能を示すものであるため、商標としての機能を果たさない場合。
- 地理的名称の不正利用:特定の地理的名称を不正に利用している場合。
異議申立ての理由は、商標法に基づいて明確に定められています。
また、異議申立ての理由は、特許庁における審査の拒絶理由(登録できないと判断される理由)と相互の関連があります。
特許庁の拒絶理由について知りたい方は、こちらの記事をチェックしてみてください。
<商標登録の拒絶理由通知について:https://cotobox.com/primer/notice-of-reasons-for-refusal/>
J-PlatPatの「異議申立のための公告」とは?
商標のJ-PlatPatのステータスが「存続-登録-異議申立のための公告」となっているのは、その商標が異議申立てができる期間中であることを示しています。
すべての登録商標で、一定期間「存続-登録-異議申立のための公告」のステータスが表示されます。
ステータスは、その商標に対して異議が申立てられた場合は「存続-登録-異議申立中」となり、異議が申立てがなければ「存続-登録-継続」へと自動的に変更されます。
ステータスが「存続-登録-異議申立のための公告」となっていても問題が発生しているわけではないので、ひとまずご安心ください。
登録異議申立ての費用
異議申立てには、特許庁へ納付する特許印紙代と、代理人に依頼する場合にかかる手数料等がかかります。
特許庁へ納付する特許印紙代は以下の通りです。
印紙代合計は、3,000円+(区分数×8,000円)で計算します。
そして、代理人に依頼する場合には、申立書面作成にかかる手数料や成功報酬が加わります。
特許印紙代と代理人費用の総合計は、一般的に、20万円〜です。
依頼する代理人により料金が異なるため、事前に確認するようにしましょう。
商標登録異議の申立てによる取消し確率
申立てをすれば必ず取り消されるというものではありません。
2022年の統計では、565件の異議申立てがなされ、そのうち登録が取り消された(一部取消を含む)のは、37件(約6.5%)です。※
取消が37件あるといっても、そもそも2022年の登録商標183,804件に対し、異議申立てされたのは565件のみであり、約0.003%にすぎません。
異議申立てをしても登録が取り消される可能性は低いのです。
※特許行政年次報告書2023年版 第2部 詳細な統計情報 第1章 総括統計:https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2023/document/index/0201.pdf
登録異議申立て審理の期間と流れ
審理の期間
異議申立てをしてから異議決定までは、6〜8ヶ月とされています。
2022年の統計では、8.9か月とあります。※
なお、異議申立ての審理は、申立書の提出期限が経過してから開始されます。
※特許行政年次報告書2023年版 第2部 詳細な統計情報 第2章 主要統計:https://www.jpo.go.jp/resources/report/nenji/2023/document/index/0202.pdf
審理の流れ
登録異議申立ては、以下の流れで行われます。
ここでは、商標が登録維持となる場合(A)、登録取消しになる場合(B)の2パターンで説明します。
◆A:商標が登録維持決定となる場合
①登録異議申立人が特許庁に登録異議申立書を提出
登録異議申立書は、紙の書面で提出します。
登録異議申立書には、申立ての理由と証拠を記載する必要がありますが、申立時には簡単な理由のみを列挙し、異議申立期間経過後(公告から2か月後)から30日以内に、申立ての理由と証拠を補充することができます。
②特許庁審判官が審判官を指定
異議申立ての審理を担当する審判官が3人指定されます。
登録査定までの特許庁の審査は審判官1人で行いますが、異議申立ての審理は、より慎重に審判官の合議体で行います。
③登録維持の決定
審判官の審理の結果、登録を取り消さないと判断された場合、商標権者に、登録を維持する「異議の決定」が届いて登録のまま終了します。
なお、「異議の決定」に対して不服の申立てはできないこととされています。ただし、商標登録無効審判を請求することは可能であるため、維持決定に対して不服がある場合には、別途、無効審判を請求することになります。
◆B:取消理由通知となる場合
①登録異議申立人が登録異議申立書を提出
②特許庁審判官が審判官を指定
③取消理由通知
審判官の審理の結果、申立てに理由があり登録を取り消すべきと判断された場合、商標権者に、その理由とともに「取消理由通知」が届きます。
商標権者は、取消理由通知に対して意見書を提出することによる反論の機会が与えられます。意見書で反論しないと取消決定となってしまうため、取り消されたくない場合は、意見書の対応をする必要があります。
④取消決定または登録維持の決定
商標権者により意見書が提出された場合、審判官はその内容も踏まえて、取消または登録を維持する「異議の決定」を行います。
商標登録異議申立ての審理フローについては、以下をご参照ください。
異議申立て期間を過ぎた場合(商標登録無効審判について)
異議申立て期間を過ぎた場合には、「商標登録無効審判」という制度を使うことができます。
商標登録無効審判を請求することにより、登録商標を無効にすることを求めることができます。
商標登録無効審判の要件は、基本的には商標の登録異議申立てと同じですが、以下の異なる点がありますので、注意が必要です。
(1)請求人について
商標登録無効審判は、「利害関係人に限り」請求できるとされています。
商標の登録異議申立てが、「何人も」申立てできることとされている点とは異なります。
すなわち、その商標登録が無効とされても何ら利益等を受ける関係にない者による請求は、認められません。
(2)請求できる期間について
商標登録無効審判は、いつまでに請求しなければならないといった期限はありません。
対象の商標権の消滅後でも請求することができます。
ただし、一部の無効理由については、「除斥期間」といって、登録の日から5年を過ぎた後は請求できないとされています。
(3)商標登録無効審判の費用について
商標登録無効審判に係る費用は、異議申立てと比べて高額で、特許庁へ納付する特許印紙代が55,000円(1区分の場合)です。
さらに、代理人に依頼する場合には、申立書面作成に係る手数料や成功報酬が加わり、合計20万円〜の費用がかかるのが一般的です。
異議申立て期間以前の場合(情報提供制度について)
商標の情報提供制度は、特許庁における審査の的確性及び迅速性の向上のために、審査に有用な情報を誰もが提供することができる制度です。
商標登録異議の申立制度と情報提供制度は別々の制度ですが、商標登録のプロセスにおいて相補的な関係であるといえます。
商標の情報提供制度についての詳細はこちらの記事をお読みください。
<自社商標と同一の商標が出願されている?情報提供制度の活用を!:https://cotobox.com/primer/information-provision/>
まとめ
商標登録異議の申立ては、不適切な商標登録を防ぐための手段であり、商標制度上、重要な役割を果たしています。
異議の申立ては、商標権者だけでなく、商標権を保有していない者や利害関係がない第三者も行うことができますので、商標登録に関して疑問や異議がある場合は積極的に行うことが望ましいです。
異議申立てを検討する第三者は、異議申立てが正当な根拠に基づいていることを確認し、適切な手続きを行うことが求められます。
また、商標権者は、以下のポイントを押さえて他者からの異議申立てに備えましょう。
- 商標登録後でも、第三者からの異議申立てにより登録が取り消される場合がある(ただし、異議申立てを受けるのは1%未満の確率)
- J-PlatPatの「存続-登録-異議申立のための公告」というステータスは、登録後に発行される商標掲載公報から2か月程度の期間中に表示される
- 異議申立てを受けても、9割近くが取消しとならずに登録が維持されるので、特に対応は不要
- 異議申立てを受けて「取消理由通知」が届いたら取消される可能性が高いため、意見書を提出して反論するか検討する