1.税関の水際取締りとは
知的財産の侵害物品の輸出入は禁止されています。知的財産侵害物品が海外から日本国内に流入し、市場に出回ることにより、権利者の経済的損失・ブランド価値の毀損のみならず、物品の内容次第によっては、消費者の健康安全に悪影響をもたらす可能性があります。そのため、税関では、日本国内へ知的財産侵害物品が入ってこないように、水際で取締りを行っています。取締りの対象となるのは、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、回路配置利用権又育成者権を侵害する物品、及び不正競争防止法違反物品です。なお、回路配置利用権は輸出取締の対象にはなっていません。
2.令和元年の税関における知的財産侵害物品の差止状況
(1)知的財産侵害物品の輸入差止実績
財務省では、知的財産侵害物品の取締り実績を公表しています。財務省「令和元年の税関における知的財産侵害物品の差止状況」(2020.3)によれば、以下の表のとおり、令和元年の税関における輸入差止件数は2万3934件であり、輸入差止点数は101万8880点となっています。つまり、1日平均で66件、2700点以上の知的財産侵害物品の輸入を差し止めていることになります。なお、輸入差止件数とは、税関が差し止めた知的財産侵害物品が含まれていた輸入申告又は郵便物の数であり、輸入差止点数とは、税関が差し止めた知的財産侵害物品の数です。例えば、医薬品の錠剤一つ一つに商標が付されている場合には、1錠ごとに1点と数えていくことになります。
(画像)財務省「令和元年の税関における知的財産侵害物品の差止状況」より抜粋
(2)仕出国(地域)別(中国・香港・韓国・その他)輸入差止件数構成比の推移
次に、仕出国(地域)別、つまり、どの国(地域)からの輸入差止件数が多いかを見ていきます。同じく、財務省「令和元年の税関における知的財産侵害物品の差止状況」(2020.3)によれば、以下の表のとおり、中国を仕出国とする物品の差止件数の割合が最も高く、82.8%となっております。この点から、日本へ入ってくる模倣品は、やはり中国から入ってくるものが最も多く、模倣品対策という観点からは、中国対策の重要性が依然として高いと言えます。なお、平成30年以降、中国を仕出国とする知的財産権侵害物品の差止件数の割合は若干低下しておりますが、中国対策の重要性は変わりません。
(画像)財務省「令和元年の税関における知的財産侵害物品の差止状況」より抜粋
(3)知的財産別輸入差止実績
次は、権利別の輸入差止実績を見ます。同じく、財務省「令和元年の税関における知的財産侵害物品の差止状況」(2020.3)によれば、偽ブランド品などの商標権侵害物品の差止件数が、96.3%と大多数を占めていることが分かります。このように、多くの商標権侵害物品の差止めがなされていることから、模倣品対策の観点からは、まず商標登録をし、後で説明する輸入差止申立てを行うことが重要であると言えます。また、中国など海外の税関で差し止め、日本への輸出を止めることも重要です。
(画像)財務省「令和元年の税関における知的財産侵害物品の差止状況」より抜粋
(4)巧妙化事例
知的財産侵害物品は、差止めを逃れるため、様々な工作を施され輸入されています。例えば、他の物品の外箱の中に商標権を侵害する医薬品が隠匿されていた事例や、即席麺袋の中にブランドのボタンが隠匿されていた事例などが、「令和元年の税関における知的財産侵害物品の差止状況」に掲載されています。
3.輸入差止申立て
税関では、年間約2000万件を超える輸入申告等があります。そのため、知的財産侵害物品の差止めを効果的に行うためには、まず、自社の知的財産侵害物品が日本国内に輸入されている、又は、輸入される見込みがあることや、真正品と知的財産侵害物品の違いを見分ける識別ポイント等を税関に提供することが不可欠です。このような情報を税関に提供し、輸入差止を申し立てる制度を、輸入差止申立てと言います。輸入差止申立てについては、以下の記事で詳しく解説してありますので、以下の記事をご覧ください。
4.まとめ
以上のように、税関では、毎年多くの知的財産侵害物品、特に、商標権侵害物品の差止めを行っています。模倣品の日本国内での流通を防ぐためには、まずは水際で差し止める必要があります。そのために、まずは商標登録を行い、その上で、税関に対して輸入差止申立てを行うことが重要です。