登録商標を、J–PlatPatで検索すると、「称呼(参考情報)」という項目を目にします。
この称呼の項目により、商標の呼び方も登録されていると考える方が多くいます。
Cotoboxユーザーからも、「称呼は登録されないのですか?」、「出願書類に記載をしないのですが?」といった質問が多く寄せられています。
しかし、皆さんのこの称呼の理解は正しくありません。
そこで、商標登録において「称呼」はどのように扱われるかを、弁理士渡辺貴康が解説します。
◇目次
1.商標の称呼
一般には、称呼とは「物事の呼び方。呼び名。呼称」(出典:小学館 デジタル大辞泉)を意味します。
商標の称呼とは、商標に接する需要者が、取引上自然に認識する音を意味します(特許庁「商標審査基準(改訂第15版」参照)。
商標を見た第三者等が、取引上自然に認識する音であるため、商標における称呼は、商標の使用者がこの商標の称呼は「○○」だと特定することはできません。
2.商標法における称呼の扱い
(1)商標の出願書類における称呼の扱い
J-PlatPatの商標の検索結果の情報には、「称呼(参考情報)」という項目があります。
しかし、(参考情報)とあるとおり、参考以上の情報ではなく、商標法では、このような称呼の項目はありません。
例えば、「登録商標の範囲」について、商標法27条1項は、次のとおり「願書に記載した商標」に基づいて登録商標の範囲が定まると規定しています。
商標法27条1項 登録商標の範囲は、願書に記載した商標に基づいて定めなければならない。
そして、この「願書」について、商標法5条1項は、次のとおり規定し、願書に「称呼」の項目を記載し、特許庁に出願するものでないことが明確になっています。
商標法5条1項 商標登録を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した願書に必要な書面を添付して特許庁長官に提出しなければならない。
一 商標登録出願人の氏名又は名称及び住所又は居所
二 商標登録を受けようとする商標
三 指定商品又は指定役務並びに第六条第二項の政令で定める商品及び役務の区分
(2)称呼がクローズアップされる場面
では、なぜ「称呼」という情報が、J-PlatPatの検索情報に掲載されるのでしょうか?
商標の「称呼」が、主に①特許庁の審査と、②商標登録後の商標権侵害において、商標の類似が争われる場面でクローズアップされることが多く、検索情報・参考情報として有用であるためです。
商標が類似するかは、①外観(見た目)、②観念(意味)、③称呼(呼び方、音)の観点から、④商取引の実情も考慮し、総合的に判断されますが、商標が類似するかの判断に際し、考慮される重要な要素の1つが「称呼」になります。
3.称呼の決まり方
(1)J-PlatPatの称呼をあてにするのは危険
商標の称呼がどのように決まるか、裁判例(知財高判平28.12.2 平成28年(行ケ)第10145号)から見てみましょう。
このケースでは、商標「くれないケアセンター」(第44類)が、先に登録された商標「くれない」(第44類)と類似するか争われました。
特許庁と裁判所は、商標「くれないケアセンター」から、「くれない」の称呼を認定し、その結果、先に登録された商標「くれない」と類似すると判断しました。
特許庁J-PlatPatで、商標「くれないケアセンター」を検索し、称呼(参考情報)の項目をみると、「クレナイケアセンター,クレナイ,ケアセンター」と記載されています。
(引用:j-platpat)
しかし、特許庁と裁判所は、「クレナイ」の称呼は認めていますが、「ケアセンター」の称呼は認めていません。J-PlatPatの称呼情報の項目が、そのまま称呼として認められるわけではありませんので、十分に注意してください。
(2)称呼の判断の仕方
では、なぜ、特許庁と裁判所は、商標「くれないケアセンター」から、「クレナイ」の称呼を認定し、「ケアセンター」の称呼は認定しなかったのでしょうか。
特許庁と裁判所は、第44類「介護」等の分野では、商標中の「ケアセンター」の部分は、介護の提供場所を一般的に表示するにすぎず、この「ケアセンター」の部分から商標(出所識別標識)としての称呼は生じないと判断したからです。
このように、商標の称呼は、J-PlatPatの称呼の項目とは関係なく、事業内容(区分)等も踏まえ、商標を見た人が商取引上自然に認識する音として、どの称呼を認めるのが適切かという判断を経て、決まります。
そのため、商標の専門家ではない人が、商標の称呼は、J-PlatPatの称呼の項目にあるとおりだと、決め打ちするのは非常に危険です。
4.まとめ
今回は、商標における称呼について、弁理士渡辺貴康が解説しました。
次の点に留意して、「称呼(参考情報)」を見るようにしてください。
・商標の称呼は、出願書類に記載できないこと(商標の使用者が決められない)
・商標の称呼は、特許庁や裁判所で類似するか判断するときに、重要な意味を持つ1要素であること
・商標からどの称呼が認められるか、専門家でない人にとって判断が難しいこと(J-PlatPatの称呼がそのまま認められない)