2019年4月30日をもって「平成」は終わりを迎え、5月1日からは新しい元号「令和」が使用されます。さて、私たちにとって身近な商品またはサービスの名称には、例えば「明治」「大正製薬」「昭和電工」「平成狸合戦ぽんぽこ」のように元号または元号が含まれており、しかも商標登録されているケースがあります。
では、新しい元号「令和」またはその元号が含まれる名称も商標登録できるのでしょうか?この記事では、2019年1月末に改訂された商標審査基準を踏まえ、最新の元号と商標にまつわる制度・事例を解説します。
◇目次
1.改正以前の商標登録できない対象は「現元号」のみ
2019年1月29日まで、商標登録の審査における元号の特許庁の取扱いについては、商標審査基準(改訂第13版)に次のとおり記載されていました。
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この審査基準だけをみると、「平成が終れば、平成で商標登録が可能なのだろうか」と考える方もいるかもしれません。もし日本国民に広く知れわたった「平成」に関連する商品名などを商標登録することができれば、旧元号の商標登録も魅力的でしょう。
※本号=商標法第3条第1項第6号「需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができない商標」。登録が認められない要件のうち、識別力のない商標について規定されている。
2.審査基準が「現元号→元号(現元号だけでない)」と改訂されました
2019年1月30日、元号に関する商標審査基準が改訂されました。
改訂された商標審査基準(改訂第14版)ではこのように記述されています(※「本号」は商標法第3条第1項第6号)。
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過去/現在を問わず「元号」と認識されるにすぎない場合、商標登録を認められないことが明記されました。
今回の商標審査基準改定によって、元号を使用した商標審査基準について明確になったものと考えられます。ただし、特許庁によると現元号でない「明治」「大正」「昭和」についても、商標審査基準を初めて公開した1971年以降は登録を認めてこなかったため、現旧関係なく旧元号も同号に該当すると扱われていたようです。そのため、今回の改訂により運用上の差異も軽減されたと言えるでしょう。
3.元号で登録できる/商標できない商標
では、新しい商標審査基準において、以下の場合、すべて登録を認められないのでしょうか?
(1)元号そのもの(例:明治、大正、昭和、平成)
(2)元号+識別力のない名称(例:昭和カメラ、平成まんじゅう)
(3)元号+オリジナルの言葉(例:明治あいうえお、大正かきくけこ)
(4)デザイン化ロゴされたロゴ
(5)過去登録されたもの(例:明治大学、大正製薬)
この(1)~(5)の中には、登録を認められないものもあれば、認められる可能性があるものもあります。順番に解説していきます。
(1)「元号そのもの(明治、大正、昭和、平成、令和)」は、登録できない
元号そのもの(例:明治、大正、昭和、平成、令和)は、現元号であるかどうかにかかわらず、登録を認められません。「現元号であるかどうかにかかわらず」とありますので、平成が旧元号になったとしても同様に認められません。
なぜなら、元号とは一般的に日付や商品の製造時期などを認識するために使用されるものであり、他者と商品・サービスを区別するブランド名であるとは考えられないからです。このように、消費者や業界内において既に一般的になっており、ほかの商品・サービスと区別するものにあたらない商標を「識別力のない商標」いいます。識別力のない商標とされた場合、登録を認められません。なお、識別力があるかどうかの判断は高度な専門知識が求められますので、専門家への相談をおすすめします。
<カタカナ、ローマ字表記の場合>
なお、「平成」ではなく「へいせい」「ヘーセー」「HEISEI」、「令和」でなく「れいわ」「レーワ」「REIWA」だったとしても、元号そのものと認識できるものは、同様に認められません。
(2)「元号+識別力のない名称」は、登録できない
例えば、「昭和カメラ」というカメラや「平成まんじゅう」「令和まんじゅう」という饅頭を商品化しても、これらの名称での登録はできません。
まず、元号そのものは(1)のとおり、識別力がない(その商標を聞いたときに一般名称・既にある言葉を想起してしまう)ために登録できません。次に、「カメラ」「まんじゅう」という名称も、そもそも業界内もしくは一般的に浸透している普通名称のため、登録できません。
また、この例以外でも、識別力がないと規定されるものは存在します。例えば、被服のブランド名として「平成シルク(原材料を示しているだけ)」や、入浴施設の名称として「平成疲労回復銭湯(効能を示しているだけ)」なども認められません。
ただし、「昭和カメラ」が、カメラ製品ではなくペット用の亀を販売しているサービスだった場合、登録を認められるかもしれません。
(3)「元号+オリジナルの言葉」は、登録できる可能性あり
例えば「明治あいうえお」「大正かきくけこ」など、他者が聞いて独自の商品・サービスのブランドであると分かる商標であれば、登録できる可能性があります。
「元号+オリジナルの言葉」であれば、今回の改正に関わらず登録を妨げていないため、すでに以下のような登録商標が存在します。
- 明治ソーヤミルク(登録第2108901号)
- 大正クイックケア(登録第545790号)
- 昭和万葉集(登録第3018767号)
- 平成館しおさい亭(登録第3018767号)
参考:Hey!Say!JUMPも登録されている
商標審査基準の改正によって「Hey!Say!JUMPは大丈夫なのか?」と一部で話題になりましたが、結論からいえば登録に問題ありませんでした。元号と「Hey!Say!」部分の称呼(聞こえ)が同じですが、「Hey!Say!」が元号そのものと認識できるとまでは言えませんし、「JUMP」という要素も入っています。「Hey!Say!JUMP」を見たときに、これが元号であると認識されることは少ないと特許庁が判断し、無事登録となったものと思われます。
(4)ロゴマークの場合、登録できる可能性あり
ロゴとして抽象化されているものであれば、取得できる可能性があります。ただし、登録できるかどうかを判断することは大変難しいです。もし元号が関係しそうなロゴを出願したい場合、専門家に相談してみましょう。
(5)過去登録されたものに対して罰則はない
私たちにとって身近なメーカーに、元号を含んだ登録商標も存在します。
- 明治(明治ホールディングス)
- 大正(大正製薬)
- 大正製薬(大正製薬)
これらは、ここまでの説明であれば「(1)元号そのもの」「(2)元号+識別力のない名称」いずれかに該当します。しかし、これらは過去に登録された商標であり、今回の商標審査基準改正によって何らかのペナルティを被ることはないでしょう。
4.まとめ
- 旧審査基準では「現元号」についてのみ基準
- 審査基準改正によって、過去/現在にかかわらず「元号」は登録を認められないとなった
- 元号にオリジナリティのある名称を付加することで、登録となる場合もある
- 審査基準改正による過去の登録商標に対する影響はない