商標は、登録後にその権利(商標権)の所有者を変更できます。
商標権の第三者への譲渡など、特許庁へ申請して権利者を変更する手続きを移転と言います。
また、単に商標権の所有者の名前や住所を変更する場合は、移転ではなく登録名義人の表示変更を申請します。
この記事では、商標権の移転、また登録名義人の表示変更に関する手続や費用について解説します。
◇目次
商標権の移転とは
商標権の移転は、商標権の所有者を全部または一部変更することです。相続や会社の合併、分割などによる権利の移転、第三者への譲渡があります。特許庁に移転登録申請を行うと、登録商標の所有者の変更が可能です。
登録商標のネーミングやロゴといった商標の内容は、権利の移転手続きでは変更できません。もしも登録商標のネーミングやロゴといった商標の内容を変更したい場合は、別途、その商標について新たに出願をし直す必要があります。
なお、権利者が変わる商標権移転の種類は、「特定承継」と「一般承継」の大きく2つに分かれます。
特定承継の手続き
特定承継は、第三者への譲渡、持分放棄などによる権利の移転です。別の会社に権利を譲渡する、複数人で共有している権利のうち一部の共有者の持ち分を他社(他者)に譲渡する場合などが、これに該当します。
また、商標権の指定商品または指定役務が2つ以上ある場合、商標権者が指定商品または指定役務ごとに分割して他社(他者)に移転する、一部譲渡なども該当します。
特定承継の手続きは、「移転登録申請書」に必要事項を記入し、特許庁に郵送するか窓口に直接提出します。商標権移転の種類によっては、申請時に他の添付書類が必要になることもあります。
特定承継では譲渡契約の締結がトラブル回避につながる
商標の移転が法的効力を発生するのは、特許庁に登録したタイミングです。この点、移転の効力が発生するまでの間のトラブルを避けるため、予め、移転登録がされるまでの間の権利の取り扱いについて規定した譲渡人と譲受人による商標権譲渡契約を締結しておきましょう。
特定承継の手続きにかかる費用
特定承継の手続きにかかる費用は収入印紙代3万円です。なお、特許事務所などに手続きを代理で依頼する場合、ほかに2.5~4万円程度の手数料が発生します。
一般承継の手続き
一般承継は、会社の合併や分社化、相続などによる権利移転を指します。申請方法は特定承継とほとんど同じで、合併や相続、会社分割など、それぞれの理由別の移転登録申請の書類を記入し、特許庁に提出します。専用の申請書に加え、別途添付書類が必要になります。
合併の場合は、「合併による移転登録申請書」に加えて、合併についての登記がある登記事項証明書等の提出が必要になります。
分社化の場合は、「被承継人による、承継する権利を特定した証明書」と、会社分割についての登記がある「登記事項証明書」が必要です。
相続の場合は、「被相続人の死亡の事実を証明する書面」と「相続人であることを証明する書面」、「相続人の印鑑証明書」などが必要になります。
一般承継の手続きにかかる費用
一般承継の手続きにかかる費用も商標権1件につき収入印紙代3万円です。特定承継と同様、特許事務所などに手続きを依頼する場合、手数料の目安は2.5万円~4万円ほどです。
権利者の住所・氏名を変更する場合と費用
商標権の登録名義人の住所や氏名の変更は、権利の移転ではなく、登録名義人の表示の変更または更正の登録申請手続きに該当します。
社名や改姓による氏名(名称)の変更、会社の移転などによる住所(居所)変更があった際は、特許庁に対して「登録名義人の表示変更登録申請書」を作成し、提出します。
変更手続きにかかる費用は、1,000円分の収入印紙1枚です。修正箇所1カ所につき1枚貼るため、住所と法人名を同時に変更する場合は、1,000円分の収入証紙が2枚必要になります。また、収入証紙代のほか、特許事務所などに手続きを依頼する場合は手数料として1.2~1.5万円がかかります。
なお、権利登録前に住所や氏名の変更を行っていたにもかかわらず、変更前の住所や氏名のまま原簿上に登録されていた場合や、誤った表示で権利登録されてしまった場合は、「表示更正登録申請書」に必要事項を記入し、印鑑証明書とともに特許庁へ提出します。手続きにかかる収入印紙代は、権利者の住所や氏名・法人名などの変更手続きにかかる費用と同じです。
出願中も住所や氏名の変更手続きが可能
商標登録を出願後の手続き中に住所や氏名の変更があった場合は、「住所(居所)変更届」または「氏名(名称)変更届」を作成し、特許庁に提出すると、変更の手続きが可能です。この場合収入印紙は必要ありませんが、特許事務所などに手続きを依頼する場合は別途手数料が必要となることが一般的です。
会社名や住所の変更手続をせず、放置しておくとどうなる?
特に創業期の会社であれば、移転も多く、住所が変わりやすいかもしれません。商標登録を終えた後に会社の所在地が移転したが変更手続きを行わなかった場合、なにかペナルティはあるのでしょうか?
■ペナルティ・デメリットは特にない
既に持っている商標について、変更手続に関する届出をしなくても、特にペナルティや罰則を受けることはありません。そのため、仮に住所変更の手続をしていなかったとしても、それを直接の理由にして、商標取消のような事態に陥ることはありません。
■契約や、新しい出願を行うなら、変更手続するべき
住所変更の手続をしなくてもペナルティはありませんが、以下のようなケースでは問題となるかもしれません。
(1) 契約時や、権利行使をする場合に生じるリスク
自身で取得した商標について、別の会社と契約を交わす際は、権利者が誰であるのかを明らかにしなければなりません。
例えば、自社と取引先との間でライセンス契約書(商標使用許諾契約書)を交わすケースを考えてみましょう。
この場合、登録商標の名義人情報と、契約書に記載する自社の情報は、当然同じでなければなりません。したがって、契約前には変更手続をし、最新の情報にしておく必要があります。
(2) 新しく商標を出願する場合に生じるリスク
シリーズ商品のように「既に持っている商標とよく似たネーミングの商標を出願したい」というケースを考えてみましょう。
権利者の情報を更新していなければ、別の出願人によって申請された商標であるとみなされる可能性があります。この場合には、特許庁の審査によって、既に登録されている他者の商標と類似していると判断され、登録が拒絶される可能性があるのです。
例えば、あなたの会社が「Cotobox」という商標を持っており、その会社が移転したとします。移転後も住所の変更手続をせずに「Cotobox Red」という商標を出願した場合、拒絶されてしまう可能性があります(拒絶理由通知と言います。)。
拒絶理由通知に対し反論したり、その時点で登録障害となっている商標権の権利者の住所をすることもできますが、時間のロスとなります。
このような事態を避けるために、事前に変更手続を行いましょう。